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    と、房一は机の上に虫の卵の形を書いてみせた。

    「困つたもんだね」

    彼が感動したのは他でもない、決してつかまらない年月といふもののふしぎさ、その尨大な、とりとめもない曖昧さ、しかもなほ決して空虚ではない、いや空虚とその反対のものが一杯にまざり合ひ、犇ひしめき、微妙につながり合ひ、その或る時は軽快に、或る時は重々しく、何かはつきりしているかと思へば混乱し、――さういふ得体のしれない経過のせいだつたのである。

    「さうだ」

    彼は眩しさうに眼をしかめた。それから、酔つて居なくても同じやうにふらりとした足つきで河の方へつゞく露地の間へ入らうとした。そのとき、何を思つたか足をとめて、路上に突立つたまゝ上手の方を眺めた。

    「や、さあお上り下さい。さあ――」

    「いや、まだ」

    「うむ、わしか」

    と訊いた。

    男は眼を閉ぢた。何も答へなかつた。

    「どうして?血はつゞいていなくてもこゝの家とは親類ぢやありませんか」

    ――「やあ、おいでなさい。わたし相沢です」

    実際、練吉の滑つこい気持よくふくらんだ頬には、その時ちらりとした微笑の影がさしていた。

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